選挙の準備で、いちばん後回しにされるのが名簿です。
車も看板もポスターも「形になるもの」ですが、名簿は形になりません。しかも急いで作れないものでもあります。それでいて、選挙の結果にはいちばん効きます。
この記事では、法律上どう扱われるのか、何を持つべきか、どこで破綻するのかを整理します。
まず、後援会名簿は個人情報保護法の「適用除外」です
意外に知られていませんが、政治団体が政治活動のために個人情報を扱う場合、個人情報保護法の「個人情報取扱事業者の義務」は適用されません。
個人情報保護委員会が明示している適用除外の対象は、次の4つです(個人情報保護法57条1項)。
| 対象 | 目的 |
|---|---|
| 報道機関 | 報道活動 |
| 著述を業とする者 | 著述活動 |
| 宗教団体 | 宗教活動 |
| 政治団体 | 政治活動 |
つまり、後援会が支援者名簿を持つことについて、一般の企業にかかる利用目的の通知や第三者提供の制限といった義務は、そのままの形ではかかりません。
ただし、ここからが本題です
適用除外には続きがあります。同法57条3項です。
適用除外となる者は、個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置、苦情の処理その他の適正な取扱いを確保するために必要な措置を自ら講じ、その内容を公表するよう努めなければならないとされています。
「法律が型を用意しない代わりに、自分で型を作って公表しなさい」という構造です。
義務が外れているから何をしてもいい、という話ではありません。むしろ、自分たちで決めなければならないということです。
実務としてやること
後援会としての個人情報の取扱方針を、1枚作ってください。
書くのは4つで十分です。何のために集めるのか。誰が見られるのか。どう保管するのか。問い合わせ先はどこか。
これを会報やホームページに載せておきます。A4で1枚あれば足ります。
理由は2つあります。ひとつは57条3項が公表を求めていること。もうひとつは、入会をお願いするときの説得力が変わることです。「名前と連絡先をいただけますか」と言われて身構える人に、方針が書かれた紙を1枚見せられるかどうかで、反応が違います。
後援会をつくる手順
名簿を集める前に、器を先に作ります。
政治団体は、組織した日から7日以内に設立届を出す必要があります(政治資金規正法6条)。提出先は都道府県の選挙管理委員会などで、規約(会則)を添えます。郵送不可で持参のみという自治体もありますので、事前に確認してください。
そして重要なのが、届出をする前は、政治活動のために寄附を受けたり支出したりできないという点です(同法8条)。
「先に会費を集めて、あとから届出」はできません。 順番が逆になると、後で処理に困ります。
Excelは、必ず破綻します
ここからは実務の話です。
多くの陣営が最初はExcelやスプレッドシートで始めます。それ自体は悪くありません。ただ、次の4つで必ず詰まります。
1. 誰の版が最新か分からなくなります。 事務所のパソコンにあるファイル、幹事長のUSBに入っているファイル、メールに添付されたファイル。別々の人が別々に更新した瞬間に、正しい名簿が消えます。
2. 紙の入会申込書が溜まります。 街頭や集会で書いてもらった紙は、誰かが入力しないとデータになりません。その「誰か」の手が空くのは、たいてい選挙の後です。
3. 「誰の紹介か」が消えます。 名前と住所と電話番号は残っても、どういう経緯で入ってくれた人なのかが分からなくなります。 後で協力をお願いするとき、これが致命的になります。
4. 選挙が終わると、誰も触らなくなります。 そして4年後、また一から集め直すことになります。本来なら4年分積み上がっているはずのものが、毎回ゼロに戻る——これがいちばん大きな損失です。
名簿に何を持つべきか
連絡先だけでは足りません。「後で頼むときに使えるか」という基準で項目を決めてください。
| 項目 | なぜ必要か |
|---|---|
| 氏名・住所・連絡先 | 基本。選挙区内かどうかが分かる形で持つ |
| 紹介者 | 誰の紹介で入ってくれたか。依頼が通る経路そのもの |
| 出会った場所・きっかけ | 「駅前で話した方」「○○さんの集会で」。思い出せるかどうかが違う |
| お願いできること | ポスター貼り/電話がけ/事務所番/SNS拡散/場所の提供 |
| 連絡してよい手段 | 電話がいい人、LINEがいい人、紙がいい人。間違えると嫌われます |
| 最終接触日 | 何年も連絡していない人に、いきなり選挙のお願いはできません |
| 会費・寄附の記録 | 収支報告に必要。名簿と別管理にすると必ずずれます |
いちばん効くのは「紹介者」と「お願いできること」です。
選挙が近づくと、陣営は「誰に何を頼めるか」を探し始めます。そのときに名前と電話番号しかない名簿を見ても、何も分かりません。「この人は○○さんの紹介で、ポスターを貼れる場所を持っている」という一行があるかどうかで、動ける人数が変わります。
慎重に扱う項目
勤務先、家族構成、支持政党といった情報は、持つなら目的をはっきりさせてください。 「なんとなく」で集めると、漏れたときの被害が大きくなります。
やってはいけない持ち方
名簿を買うこと。 公選法以前に、信用の問題です。選挙は信用の商売なので、嫌われ方のコストが極端に高いとお考えください。
支援者の名簿を、本人の承諾なくコピーすること。 「後援会長が持っている会社の顧客名簿を使う」といった話は、後で必ず問題になります。
選挙が終わったら放置すること。 名簿は生きものです。引っ越し、転職、亡くなられた方。何もしなければ、届かない連絡先が着実に増えていきます。
総務省の住民基本台帳人口移動報告によると、2024年に市区町村をまたいで移動した人は約520万人でした。人口のおよそ4%が、1年のうちに別の市区町村へ動いている計算になります。同じ市内での引っ越しはこの数字に含まれていませんので、住所が変わる人は実際にはもっと多くなります。
1回の任期は4年です。その間、名簿に一度も触らなければ、選挙のときに何割かは届かない状態になっているとお考えください。年に一度、会報を出すだけでも構いません。戻ってきた郵便が、そのまま更新すべき行のリストになります。
ツールをどう選ぶか
段階で考えてください。
| 規模 | 現実的な方法 |
|---|---|
| 〜100人程度・触るのは1人 | スプレッドシートで足ります |
| 数百人以上、または複数人で触る | ツールが必要です |
| 数千人規模・寄附管理も一体で | パッケージ製品の検討を |
分かれ目は人数より、「複数人が同時に触るかどうか」です。1人で管理している間はExcelで問題ありません。事務所のスタッフとボランティアが同じ名簿を見る段階になると、破綻します。
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無料から始められることが最大の理由です。
後援会の立ち上げ時期は、お金をかけられません。それでいて、この時期に集めた人が、いちばん濃い支援者になります。無料で始めて、必要になったら有料に上げられるという形が、政治活動には合っています。
紹介者やお願いできることといった項目も、自分で追加できます。誰がいつ連絡したかの履歴も残ります。「4年後にゼロに戻る」を防ぐという一点だけでも、入れる価値があります。
HubSpotの無料版で実際にどこまでできるのか、どこに限界があるのかは、HubSpot無料CRMでどこまでできる?機能と限界を正直に解説にまとめられています。導入を検討される方は、そちらもあわせてご覧ください。
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公選法との接点
名簿を持つことと、それを使うことは別の話です。
選挙運動用の電子メールを送れるのは、候補者と確認団体だけです(2027年2月まで)。名簿にメールアドレスがあっても、支援者が代わりに送ることはできません。2027年3月1日の法改正でこの規制は撤廃されますので、詳しくは2027年3月から選挙のネット運用が変わるをご覧ください。
LINEやSNSのメッセージは「ウェブサイト等」の扱いで、一般の支援者も使えます。この線引きはLINEで投票を呼びかけていい?にまとめています。
18歳未満の人は選挙運動ができません。 名簿に「お願いできること」を書くときは、年齢の確認も忘れないでください。
後援会を広げる動きそのものについては、ドブ板選挙と空中戦もあわせてご覧ください。
後援会の人手が何に使われるのかは市議選で当選する人がやっていることで具体的に書きました。
よくある質問
Q. 後援会を作らずに、個人で名簿を持つのはだめですか?
法律上できないわけではありませんが、寄附や会費を扱うなら政治団体の届出が必要になります。また、適用除外の対象は「政治団体」ですので、個人で持つ場合の扱いは変わってきます。判断に迷う場合は選挙管理委員会にご確認ください。
Q. 何人集めればいいですか?
自治体の規模によりますが、人数より「連絡が取れる状態か」です。3,000人の古い名簿より、300人の生きている名簿のほうが動きます。
Q. 入会申込書には何を書いてもらえばいいですか?
氏名・住所・連絡先に加えて、「紹介者」と「お手伝いいただけること」の欄を作ってください。この2つがあるかどうかで、後の使い勝手が変わります。
Q. 集めた名簿は、どこまで共有していいですか?
共有範囲を先に決めて、書いておいてください。 全員が全部見られる状態は危険です。事務所スタッフは全項目、ボランティアは担当地区だけ、といった分け方が現実的です。
Q. 紙の申込書はどうすればいいですか?
その日のうちに入力する体制を作ってください。 溜めると入らなくなります。集会の後に30分だけ入力の時間を取る、というルールにしている陣営が多いです。
Q. 名簿が漏れたらどうなりますか?
適用除外であっても、信用の失い方は変わりません。 57条3項が求める安全管理措置は、法的な義務というより、自分たちを守るための備えとお考えください。
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|---|---|
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名簿の項目設計やHubSpotの導入についても、ご相談いただけます。 ツールを入れること自体より、何を持つかを決めるほうが難しいところです。入会申込書の設計から一緒に考えます。
2027年春は統一地方選挙です。 名簿は急いで作れないものですので、早い段階でご相談ください。「まだ出馬を決めていない」という段階でも構いません。
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2027年4月は統一地方選挙です。 全国で同時に需要が重なるため、車両の確保がいちばん難しい時期になります。えらぶカーでは事前予約を受け付けています。