生成AI画像・動画の選挙利用、2027年3月から表示義務に|候補者が知っておくべきポイント

選挙ポスター用の写真をきれいに補正したり、演説原稿の下書きをAIに手伝わせたり――生成AIはすでに選挙の現場に入り込んでいます。そんな中、2026年7月13日に改正公職選挙法・改正情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)が成立し、2027年3月1日から、実写と誤認されるおそれのある生成AI画像・動画に「AIで生成したものである」旨の表示が義務化されることになりました。2027年春の統一地方選挙から適用される見込みです。今回の改正は、候補者だけでなく陣営スタッフや外部の制作会社にも関わってくる話です。本記事では、現時点で分かっている範囲の事実を整理しながら、候補者・陣営が今のうちに準備しておきたいことをまとめます。


目次

生成AIは選挙運動の現場でどう使われ始めているか

選挙運動と生成AIの関わりは、すでに「これから」ではなく「今」の話になっています。代表的な活用場面をいくつか挙げてみます。

まず多いのが、演説原稿やSNS投稿文の作成支援です。候補者本人や事務所スタッフが伝えたい政策の要点をAIに投げて、たたき台となる文章を作ってもらう、ありがちなキャッチコピーを何パターンか出してもらう、といった使い方は、もはや珍しくありません。文章の骨格をAIに任せて、候補者自身の言葉で仕上げるというスタイルは効率化の手段として広がっています。

次に、ビジュアル面での活用です。選挙ポスターやチラシ、SNS投稿用の画像を生成AIで作る、あるいは既存の候補者写真を加工・調整するケースも増えています。背景を差し替えたり、雰囲気作りのためにイラスト調のビジュアルを作ったりする程度であれば違和感は少ないものの、実際の写真のように見せる高精細な合成画像を作れてしまうところが、今回の法改正が問題視している部分と重なります。

動画についても同様で、候補者のスピーチをテロップ入りの短尺動画に自動編集したり、AIナレーションを付けたりするツールは一般にも普及しつつあります。こうした技術そのものは選挙運動を効率化する上で有用ですが、同時に「実際に撮影されたかのように見える合成コンテンツ」を誰でも作れてしまう時代になった、ということでもあります。

こうした生成AIの活用が広がっている背景には、選挙運動にかけられる予算や人手の制約もあります。プロのカメラマンやデザイナーを何度も手配する余裕がない陣営にとって、生成AIは低コストで一定水準のビジュアルを用意できる手段として重宝されてきました。特に地方選挙のように陣営規模が小さいケースでは、候補者本人やごく少数のスタッフがSNS運用からビジュアル制作までを兼務していることも多く、そうした現場ほど生成AIツールへの依存度は高くなりやすい傾向があります。


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2026年7月成立の改正内容、何が変わるのか

2026年7月13日に成立した改正公職選挙法・改正情プラ法の要点は、次の3つに整理できます。

1つ目は、実写と誤認されるおそれのある生成AI画像・動画について、投稿者にAIで生成したものである旨を表示する義務が新設されたことです。施行は2027年3月1日で、2027年春の統一地方選挙から適用されます。裏を返せば、2026年夏の参院選のように施行前に行われる選挙には適用されません。

2つ目は、罰則そのものが新しく作られたわけではなく、既存の「虚偽事項の公表罪」(公職選挙法235条2項)や「なりすまし罪」(235条の5)が、SNS上の発信にも適用されることが明確化された点です。つまり今回の改正は、新しい刑罰を作ったというより、既存のルールがネット上の活動にもしっかり及ぶことを条文上はっきりさせた、という位置づけです。表示義務についても、この文脈の中に置かれた措置と理解しておくとよいでしょう。

3つ目は、有権者側にも「偽情報によって選挙の公正を害してはならない」という責務規定(142条の7)が新設されたことです。こちらは候補者や陣営に向けたものではありませんが、デマや切り抜き動画の拡散を有権者側にも自覚してもらう狙いがあるとみられます。なお、この責務規定にも罰則の新設はありません。

背景として大きかったのは、2024年の兵庫県知事選や東京都知事選です。SNS上でのデマや誹謗中傷、文脈を切り離した切り抜き動画の拡散が選挙戦を揺るがし、これが今回の法改正の直接的な契機になったと言われています。

なお、今回の法改正は国会での審議を経て成立したものであり、施行日である2027年3月1日までの間には、政令や総務省令、そしてガイドラインの整備が進められる見通しです。候補者・陣営が実際に対応を求められるのは施行後ですが、制度の詳細が明らかになるのはこれから、という点は改めて意識しておく必要があります。

施行前と施行後で何がどう変わるか

時期による違いを表に整理すると、次のようになります。

項目 2027年3月1日より前 2027年3月1日以降(統一地方選から適用)
生成AI画像・動画の表示義務 法律上の表示義務なし 実写と誤認されるおそれのあるものは表示義務あり
虚偽事項の公表罪・なりすまし罪 従来どおり適用 SNS上の発信への適用が明確化された形で存在
有権者の責務規定(142条の7) 規定なし 新設(罰則なし)
2026年夏の参院選への適用 対象外(未施行)
表示方法・対象範囲の詳細 未確定 総務省ガイドライン待ち(2026年7月時点)

この表からも分かるとおり、現時点でもっとも重要なのは「詳細がまだ決まっていない」という事実そのものです。何が実写と誤認されるおそれのあるコンテンツに該当するのか、表示は具体的にどんな形式で行うのか――これらは2026年7月時点では総務省のガイドラインを待つ段階にあります。断定的な情報を見かけても、現時点では推測の域を出ないものが多いと考えておいたほうが安全です。


なぜ「実写との誤認」が問題になるのか

そもそも、なぜ生成AI画像・動画そのものではなく「実写と誤認されるおそれがあるもの」に絞って規制がかけられるのでしょうか。ここには有権者の判断を守るという明確な狙いがあります。

選挙において有権者は、候補者の発言や表情、行動といった情報を手がかりにして投票の判断を下します。もしその手がかりが、実際には存在しない出来事を描いた合成画像や動画だったとしたらどうなるでしょうか。候補者が言っていないことを言っているように見せる、行っていない場所に行っているように見せる――こうしたコンテンツが「本物の写真・映像」として拡散されれば、有権者は誤った前提で投票先を選んでしまう可能性があります。

加えて、フェイク画像は誹謗中傷や虚偽宣伝の道具にもなり得ます。対立候補を貶めるような合成画像が「本人が実際に撮られた写真」として広まってしまえば、それだけで選挙戦の公正さは大きく損なわれます。2024年の兵庫県知事選や都知事選で問題視されたのも、まさにこうした「本物らしく見えるものが本物として扱われてしまう」現象でした。表示義務という仕組みは、AI生成物であること自体を禁止するのではなく、「これはAIで作られたものだ」という情報を有権者に事前に渡すことで、判断のミスリードを防ごうとするものだと理解しておくと、制度の狙いが見えやすくなります。

また、画像や動画だけでなく、音声についても似た構図があります。候補者本人の声に似せた音声を生成し、実際には話していない発言をしているかのように聞かせる技術も存在します。今回の改正の対象は画像・動画とされていますが、有権者が「本人が話している」と信じてしまうリスクという点では、音声も根っこは同じ問題を抱えていると言えるでしょう。


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想定ケースで考える、候補者写真の加工はどこまでが問題になり得るか

実際にありそうな場面を1つ想定してみましょう。ある候補者の陣営が、SNS投稿用に候補者の写真を加工したビジュアルを作るとします。背景を演説会場らしい雰囲気に差し替えたり、明るさやコントラストを調整したりする程度の加工は、写真編集の範囲として昔から広く行われてきました。これ自体は今回の改正が問題にしているものとは性質が異なります。

一方で、実際には行っていない集会に候補者が立っているように見せる、実際には隣にいない有力者と並んで写っているように見せる、というレベルまで生成AIで作り込んでしまうと、話は変わってきます。こうした画像は「実際にあった出来事の記録」として受け取られるおそれが強く、まさに今回の表示義務が対象にしようとしている領域に近づいていきます。

ただし、境界線がどこにあるのかは、現時点では総務省のガイドラインが出ていないためはっきりと線引きできません。「背景を差し替えるだけならOK」「人物を合成したらNG」といった単純な切り分けで済むのか、それとも「実写に見えるかどうか」という見た目の印象で判断されるのか、詳細は今後の指針を確認する必要があります。陣営としては、少なくとも「これは加工・生成された画像である」と説明できないビジュアルを、実写であるかのように投稿することは避けたほうが無難、というのが現時点での現実的な線でしょう。

動画についても似たような線引きの難しさがあります。実際に行った演説を、テロップやBGMを加えて分かりやすく編集する行為は、これまでも広報活動の一部として普通に行われてきました。一方で、実際には話していない発言をAIで合成して字幕や音声に加える、あるいは複数の演説を組み合わせて一つの発言のように見せる、といった編集になると、実写の記録としての信頼性が損なわれる方向に近づきます。「元の映像に忠実かどうか」は、今後の判断材料の一つになりそうです。


2027年3月の施行までに候補者・陣営が準備しておきたいこと

施行まではまだ時間がありますが、2027年春には統一地方選挙が控えています。準備は早いに越したことはありません。ここでは、施行前に手を付けておきたいことを整理します。

まず必要なのは、陣営内でのルール整備です。誰が、どんな素材を、どういう工程で作っているのかを一度洗い出してみることをおすすめします。ポスター写真の加工は誰が担当しているのか、SNS投稿画像は内製か外部委託か、動画編集にAIツールをどこまで使っているのか――こうした現状把握がないと、いざ表示義務が施行されたときに何を表示すべきかの判断すらできません。

次に、素材の管理体制です。生成AIを使って作った画像・動画は、いつ、どのツールで、どんな指示(プロンプト)で作ったのかを記録に残しておくと、後から「これはAI生成物か、実写か」を確認する際に役立ちます。制作履歴が残っていないと、施行後にガイドラインが固まった際、既存の素材が対象になるのかどうかの判断が難しくなります。

外部の制作会社やデザイナー、動画編集者に業務を委託している場合は、早めに今回の法改正について共有しておくことも大切です。委託先が生成AIツールをどの工程で使っているかを陣営側が把握していないケースは少なくありません。悪意がなくても、委託先が独自の判断で実写風の合成画像を作ってしまい、それが陣営の投稿として拡散されてしまう、という事態は避けたいところです。

あわせて、陣営スタッフやボランティアへの意識づけも欠かせません。SNS発信は複数人が関わることも多く、誰か一人が生成AI画像・動画の扱いを理解していても、他のメンバーが同じ基準を知らなければ、意図しない投稿が発生しかねません。定例のミーティングなどで「生成AIを使った素材はこう扱う」というルールを共有し、全員が同じ物差しで判断できる状態を作っておくことが、施行後の混乱を防ぐ近道になります。

表示方法そのものについては、総務省のガイドラインが固まってから対応するほかありませんが、「表示欄を設ける」「投稿の一部にAI生成である旨のテキストを入れる」といった対応が求められる可能性はあります。今の段階でできることは、ガイドラインが出たときにすぐ動けるよう、社内の体制を整えておくことだと考えておくとよいでしょう。


選挙運動用ポスターやSNS投稿で生成AI画像を使う場合の注意点

ポスターやSNS投稿でビジュアルを作る際、今のうちから意識しておきたい点をいくつか挙げます。

1つは、実写風の合成をどこまで行うかを事前に決めておくことです。候補者の写真をベースに、背景やライティングを調整する程度は従来からある表現の範囲内ですが、実在しない場面をまるごと作り出すようなビジュアルは、施行後の表示義務の対象になり得る可能性が高いものとして扱っておくのが安全です。

もう1つは、イラストやアニメーション調のビジュアルとの違いを意識することです。今回の規制対象は「実写と誤認されるおそれのあるもの」に限定されているため、明らかにイラストやCG調と分かるデザインであれば、対象になる可能性は低いと考えられます。逆に、写実的なタッチで作られた画像ほど、実写との境界があいまいになりやすい点には注意が必要です。

そしてもう1つ、SNSでの拡散スピードの速さも踏まえておくべきポイントです。一度投稿された画像や動画は、たとえ後から削除しても、すでにスクリーンショットや転載によって拡散してしまっていることがあります。表示義務が制度として整うまでの間も、実写と誤認されやすいビジュアルの取り扱いには慎重さを持っておいたほうがよいでしょう。

ポスターの印刷を外部の印刷会社に依頼している場合、写真データそのものがどのように作られたのかを確認しておくことも忘れがちなポイントです。印刷会社側が独自に画像を補正・生成していることもあり、陣営が把握していないまま実写風の合成写真が使われてしまう可能性もゼロではありません。発注時に「生成AIでの加工が含まれる場合は共有してほしい」と一言伝えておくだけでも、後のトラブルを防ぎやすくなります。


今のうちに確認しておきたいポイント

施行までにやるべきことは多岐にわたりますが、まずは次のような点から確認しておくと動きやすくなります。

陣営内の体制について

選挙運動で使う画像・動画のうち、生成AIが関わっているものはどれか。担当者は誰で、外部委託はどこまで含まれているか。この2点をリストアップするだけでも、今後の対応方針が立てやすくなります。

素材の作り方について

候補者本人の写真をベースにしているか、それとも一部・全部が生成AIによる合成か。ここを社内で明確に区別できる状態にしておくことが、施行後の対応の土台になります。

情報源の確認について

総務省のガイドラインは今後公表される予定です。公表されたタイミングで内容を確認できるよう、選挙管理委員会や総務省の発表をこまめにチェックする担当者を決めておくと安心です。

2026年夏の参院選との違いについて

今回の改正は2027年3月1日施行であり、2026年夏の参院選には適用されません。目先の選挙での対応と、2027年春の統一地方選以降の対応を混同しないよう、時期の整理をしておくことも意外と大事なポイントです。

予算やスケジュールへの影響について

表示義務そのものへの対応は、大掛かりな設備投資を必要とするものではなさそうですが、社内チェックの手順を一つ増やす、外部委託先とのやり取りを一段階追加する、といった小さな積み重ねが発生する可能性はあります。統一地方選挙に向けた広報計画を立てる段階で、こうした確認作業をあらかじめ工程に組み込んでおくと、施行直前になって慌てる事態を避けられるはずです。

※本記事は2026年7月時点で成立した内容に基づく一般的な情報です。具体的な運用・線引きは総務省・選挙管理委員会の発表を必ずご確認ください。


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まとめ

2026年7月13日に成立した改正公職選挙法・改正情プラ法により、2027年3月1日から、実写と誤認されるおそれのある生成AI画像・動画には表示義務が課されることになりました。適用は2027年春の統一地方選挙からで、2026年夏の参院選には及びません。今回の措置は新しい罰則を作るものではなく、既存の虚偽事項の公表罪やなりすまし罪がSNS上の発信にも及ぶことを明確にした流れの中に位置づけられています。

表示方法や対象範囲の詳細は、2026年7月時点ではまだ総務省のガイドライン待ちです。断定的な情報に振り回されず、今できることとしては、陣営内での素材管理体制の整備、外部委託先への周知、そして情報源のチェック体制づくりから始めておくのが現実的です。統一地方選挙まではまだ時間がありますが、選挙運動の準備は早いほど余裕を持って進められます。

生成AIは、正しく使えば選挙運動の負担を軽くしてくれる便利な道具です。今回の法改正も、生成AIの利用そのものを制限するものではなく、実写と誤認されるおそれのある使い方に一定のルールを設けるものだと捉えると、身構えすぎずに準備を進められるのではないでしょうか。

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