2027年3月から選挙のネット運用が変わる|AI表示義務・メール解禁・なりすまし規制

2026年7月13日、公職選挙法と情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)の改正が成立しました。施行は2027年3月1日で、2027年春の統一地方選挙から適用されます。

内容は大きく3つ。AIで作った画像・映像には表示が必要になり、電子メールの厳しい規制は撤廃され、なりすましや虚偽情報の禁止がネット利用者全員に広がります。 どれも陣営の実務に直接ひびく変更です。

この記事では、何がどう変わるのかを、いまのルールと並べて整理します。

目次

3行でまとめると

いま(〜2027年2月) 2027年3月1日から
AI画像・映像 表示義務なし その旨の表示が必要
選挙運動用メール 候補者・政党のみ、事前同意が必要 規制を撤廃し、SNSと同じ扱いに
なりすまし・虚偽情報 候補者に関する虚偽が中心 ネット利用者全員が対象に

加えて、SNS事業者側にも偽情報の拡散防止措置が義務づけられます。

なお新しい罰則は設けられていません。 表現の自由への配慮から見送られ、代わりに「これは違法だ」と法律上はっきりさせることで、プラットフォーム事業者が削除しやすくする、という組み立てになっています。

1. AIで作った画像・映像には表示が必要になります

いちばん実務に近い変更がこれです。選挙運動や落選運動で使う文書図画に、AIを使って作成・改変した画像や映像を載せる場合、その旨を表示しなければならないとされました。

対象になるもの・ならないもの

表示義務
AIで生成した人物写真風の画像 必要
実写をAIで加工・合成した映像 必要
AIに書かせた文章・キャッチコピー 不要(テキストは対象外
明らかにイラストとわかるAI画像 不要

ポイントは2つあります。ひとつは対象が画像と映像に限られ、テキストは入っていないこと。もうひとつは、実際に撮影されたものと誤認されるおそれのないものは除かれることです。アニメ調のイラストや、見るからに合成とわかる素材までは求められていません。

逆に言えば、「本物の写真に見えるAI画像」がいちばん危ないということになります。演説会場を大きく見せる、実在しない支援者を映す、といった使い方は、表示なしでは改正法に触れます。

落選運動も対象です

見落としやすいのがここで、自分の当選のためだけでなく、他候補を落とすための発信(落選運動)も対象に含まれます。相手候補の映像をAIで加工して流す、といった行為は正面から引っかかります。

罰則はありませんが、放置はできません

前述のとおり罰則は新設されていません。ただし違法であることが法律上明確になるため、SNS事業者は削除の根拠を持つことになります。投稿が消される、アカウントに制限がかかる、報道される──実務上のダメージは罰金の有無とは別に発生します。

2. 選挙運動用メールの規制が撤廃されます

これがいちばん大きな方針転換かもしれません。

いまのルール(2027年2月まで)

現在、選挙運動用の電子メールを送れるのは候補者と確認団体(届出政党)だけです(公職選挙法142条の4)。一般の有権者は送信できませんし、候補者から届いたメールを転載して広めることも禁止されています。さらに送信先は、あらかじめ同意した人に限られます。

つまり「応援している候補のメールを友人に転送する」は、いまはアウトです。ここを知らずにやってしまう支援者は少なくありません。

改正後

この厳しい枠組みが廃止され、一般的なウェブサイトやSNSと同じ規制に一本化されます。メールだけを特別扱いする理由が薄れた、という整理です。

ただし「何でも自由になる」わけではありません。 SNSと同じ扱いになるということは、SNSに課されているルールがそのまま適用されるということです。虚偽事項の公表や誹謗中傷が禁じられる点は変わりませんし、選挙運動期間(告示日〜投票日前日)の外で投票を呼びかければ、事前運動として違法という原則も動きません。

陣営として準備しておくこと

支援者向けのガイドラインを作っている陣営は、メールの項目を書き直す必要があります。 いまは「メールでの応援は禁止」と案内しているはずですが、2027年3月以降はその説明が誤りになります。

一方で、改正前に送ってしまえば当然アウトです。2026年内や2027年2月までに選挙がある地域では、現行ルールが適用されます。切り替わりの時期は特に注意してください。

3. なりすまし・虚偽情報の禁止が全員に広がります

3つ目は、ネットを利用するすべての人を対象に、虚偽事項の流布を禁止する規定が新設される点です。

いまもある罰則

なりすましや虚偽情報は、現行法でもすでに処罰対象です。

条文 行為 法定刑
235条1項 当選を得る目的で経歴等の虚偽を公表 2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金
235条2項 当選させない目的で虚偽を公表・事実を歪曲 4年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金
235条の5 真実に反する氏名・名称・身分を表示して通信(なりすまし) 2年以下の禁錮または30万円以下の罰金

235条の5には選挙権・被選挙権の停止も付きます。「バレなければいい」で済む話ではありません。

何が変わるのか

現行規定は、候補者に関する虚偽が中心でした。改正では対象が広がり、ネット利用者全体に虚偽情報を流さない責務が課される形になります。ここも罰則の新設はなく、削除の根拠づくりが主眼です。

陣営が気をつけるべきなのは「善意の拡散」

悪意ある工作より現実に多いのは、支援者が確認せずにシェアしてしまうケースです。対立候補についての未確認情報、出所不明のスクリーンショット、切り取られた発言。これらが陣営アカウントからシェアされれば、陣営の責任として扱われます。

支援者への周知は、改正を待たずいまから始めておいて損はありません。

4. SNS事業者にも義務がかかります

情プラ法の改正で、大規模なSNS事業者には選挙期間中の偽情報について、拡散防止の措置を講じる義務が生まれます。対応結果は年1回公表することとされています。

陣営から見ると、削除依頼が通りやすくなるという意味を持ちます。誹謗中傷やなりすましアカウントに対して、これまでより手を打ちやすくなる可能性があります。

一方で、自陣の投稿が「偽情報」と判断されて消される側に回ることもあり得ます。出典のない数字、伝聞の断定、加工した画像。これまで曖昧に流していたものが、削除の対象になります。

陣営でいま準備できること

改正まで時間はありますが、いまのうちに手を打てることがあります。

  • □ AIで作った画像・映像を使っているか棚卸しする
  • □ 使うなら「AI生成」と入れる運用を、いまから習慣にしておく
  • □ 支援者向けガイドラインの「メール」の項目に、改正の予定を追記
  • □ 出典のない情報をシェアしない、というルールを陣営内で共有
  • □ 過去投稿に未確認情報が残っていないか確認する

とくに1つ目と2つ目です。表示義務は2027年3月からですが、いまから表示しておいて損はありません。 施行後に慌てて全投稿を見直すより、最初から入れておくほうが確実に楽です。

よくある質問

Q. 2026年中の選挙にはどのルールが適用されますか?

現行ルールです。施行は2027年3月1日なので、それ以前の選挙では従来どおり、選挙運動用メールは候補者・政党のみ、AI表示義務もありません。

Q. AI表示は、どこにどう書けばいいですか?

「その旨を表示する」とされていますが、具体的な文言や位置の詳細は、総務省の運用指針を待つ部分があります。 現時点では、画像の近くに「この画像は生成AIを使用しています」と明記しておくのが無難です。実際の運用は選挙管理委員会にご確認ください。

Q. 写真の明るさ補正やトリミングも対象ですか?

条文は「AIを利用して作成または改変した」画像・映像を対象としています。一般的な明るさ補正やトリミングまで含める趣旨とは考えにくいものの、AIによる加工でどこからが「改変」かの線引きは、運用指針で明確になる部分です。判断に迷う加工は避けるのが安全です。

Q. メール解禁後、名簿を買って一斉送信してもいいのですか?

改正は公職選挙法上の扱いの話です。特定電子メール法や個人情報保護法は別に適用されます。 名簿の入手経路や同意の有無は、そちらの法律で問われます。

Q. LINEやSNSのDMはメールに含まれますか?

現行法上、LINEやSNSのメッセージ機能は「電子メール」ではなく、ウェブサイト等を利用する方法として扱われてきました。改正でメールもそちらに一本化されるため、扱いの差は実質なくなる方向です。

Q. 罰則がないなら、守らなくてもいいのでは?

法律上「違法」と位置づけられる以上、削除・アカウント制限・報道といった形で不利益は生じます。 選挙は信用が資産の世界です。罰金がないことと、やっていいことは別だと考えてください。


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