「候補者は今、街頭演説に出ています。ブログの更新、代わりにやっておいてもらえますか?」――ある陣営で、事務所を任されているスタッフがそう頼まれたことがありました。SNSの運用はスタッフに任せている陣営が多い一方で、「候補者本人のホームページやブログまでスタッフが触っていいのか」については、意外と自信を持って答えられる人が少ないようです。今回は、公職選挙法142条の3が定める「ウェブサイト等を利用する方法による選挙運動」のルールをもとに、この疑問を整理します。
なぜこの疑問が生まれるのか
選挙運動用の電子メールは、公職選挙法142条の4により送信できる主体が候補者・政党等に限定されています(詳しくは別記事「候補者からの選挙運動メールは誰でも送れる?」で解説しています)。この電子メールのルールを知っている方ほど、「ホームページやブログも、同じように候補者本人しか更新できないのでは」と考えてしまうことがあります。しかし、ウェブサイト等(ホームページ・ブログ・SNS・動画投稿サイトなど、電子メールを除くインターネット上の手段)については、電子メールとは別の条文が適用されます。
ウェブサイト等を使った選挙運動は「何人も」できる
公職選挙法142条の3は、ウェブサイト等を利用する方法による選挙運動について、電子メールとは異なり、候補者・政党等に限定せず「何人も」行うことができると定めています(未成年者を除く)。つまり、法律の建て付けとしては、候補者本人だけでなく、支援者や有権者も含めて幅広い主体がウェブサイト等を使った選挙運動を行えることになっています。
この条文が「何人も」としているのは、あくまで誰がその情報発信の主体(アカウント・サイトの持ち主)になれるかという話です。「候補者本人のホームページ」という特定のサイトの中で、実際に更新作業を行うのが候補者本人か、それとも権限を与えられたスタッフかという運用面の話とは、少し次元が異なります。
「誰が実際に更新するか」は法律に明文の規定がない
調べてみると、「候補者本人のウェブサイトを、本人以外が実際に更新してよいか」という運用面を直接定めた条文は見当たりません。SNSの運用をスタッフに任せている陣営が実際に多く存在することからも分かるように、候補者の意向を受けたスタッフが、候補者に代わって投稿作業を行うこと自体は、一般的な陣営運営の実務として広く行われています。
ただし、法律に明文の禁止規定がないからといって、何を投稿しても問題にならないわけではありません。次の2点は、更新担当者が誰であっても必ず押さえておく必要があります。
必ず守るべき「連絡先情報の表示義務」
選挙運動用の文書図画をウェブサイト等に掲載する場合、そのサイトには、電子メールアドレスなど、インターネット等を利用して連絡できる情報を表示することが義務付けられています。これは運営者が候補者本人か第三者かを問わず適用される義務です。ホームページやブログをリニューアルした際、この表示がうっかり抜け落ちてしまうケースもあるため、更新のたびに「連絡先表示が残っているか」を確認する習慣をつけておくと安心です。
投稿内容の責任は最終的に候補者に及ぶ
スタッフが実際に投稿ボタンを押した内容であっても、それが候補者本人の名義で公開される以上、内容に対する信頼・責任は候補者に帰属します。特に、当選を得る(または得させない)目的で事実と異なる内容を公表した場合は、虚偽事項公表罪に問われる可能性があり、投稿した本人はもちろん、それを許可・黙認していた候補者側の責任も問われかねません。また、支援者の重大な選挙違反が確定した場合には、連座制により候補者本人の当選が無効となる可能性もあります。「スタッフが書いたことだから」では済まされない、という前提で運用体制を整えることが重要です。
スタッフ運用でトラブルを防ぐための実務上の工夫
ここから先は法律上の義務ではなく、実務上の工夫として陣営でよく行われている対応です。
- 更新権限を持つスタッフを限定し、誰がいつ何を投稿したか分かるようにしておく
- 候補者本人が内容を確認してから公開する「投稿前チェック」の流れを決めておく
- パスワードや管理画面へのアクセス権限は、スタッフの入れ替わりに合わせて定期的に見直す
- 事実関係があいまいな内容(対立候補や有権者への言及など)は、公開前に必ず候補者本人の確認を取る
こうした体制は、選挙特有のものというより、企業の公式サイト・SNS運用でも一般的に行われている「炎上防止」の考え方に近いものです。特別なことをする必要はなく、担当者と確認フローをはっきりさせておくだけで、多くのトラブルは未然に防げます。
よくある質問
Q. ホームページの更新をスタッフに任せるのは違法ですか?
A. 「誰が実際に更新作業を行うか」を直接禁止する条文は見当たりません。ただし、投稿内容の責任は最終的に候補者に及ぶため、内容の確認体制を整えておくことが重要です。
Q. 連絡先情報は、どこに載っていればよいですか?
A. 電子メールアドレスや問い合わせフォームのURL、SNSアカウントなど、インターネットを通じて連絡できる情報が確認できる場所に表示されていれば良いとされています。具体的な表示位置や形式に迷う場合は、選挙管理委員会に確認しておくと安心です。
Q. スタッフが誤った情報を投稿してしまったら、どうすればいいですか?
A. 気づいた時点で速やかに訂正・削除を行い、必要に応じて選挙管理委員会に相談してください。日頃から投稿前チェックの体制を作っておくことが、何よりの予防策です。
※本記事はウェブサイト等を利用した選挙運動に関する一般的な情報を紹介したものです。個別の状況については、必ず選挙管理委員会にご確認ください。
まとめ
候補者のホームページやブログは、電子メールとは異なり「何人も」利用できるウェブサイト等に分類され、実際の更新作業をスタッフが担うこと自体を直接禁止する規定はありません。ただし、連絡先情報の表示義務は必ず守る必要があり、投稿内容の責任は最終的に候補者に及ぶことを踏まえて、確認体制を整えたうえで運用することが大切です。
電子メールを使った選挙運動は、SNSに比べて要件が細かく、判断に迷う場面も少なくありません。個別の状況については、必ず選挙管理委員会に事前確認することをおすすめします。
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