「SNSはXアカウントを個人用に一つ持っているだけで、フォロワーは50人くらいです」。出馬を検討し始めた方から、こういう自己申告を受けることがよくあります。決して珍しいことではありません。地域に根を張って活動してきた人ほど、これまでの信頼関係は対面や紙のチラシ、電話や口コミで築いてきたケースが多く、SNSはむしろ縁遠かったという方が大半です。ただ、出馬を決めた瞬間から、SNSは「余力があればやるもの」ではなく、有権者と接点を作るための基本装備になります。この記事では、SNSをほとんど触ってこなかった新人候補者が、アカウント開設から最初の1ヶ月をどう動けばよいのかを、具体的な手順として整理していきます。
実際に相談を受けていて感じるのは、多くの方が「何を投稿すればいいか分からない」以前の段階、つまりどのSNSをどんな順番で始めればいいのかすら決めかねているという点です。周囲から「TikTokが今の流行りらしい」「まずはXだろう」といった断片的な助言をもらい、結局どれも中途半端に手を出して疲れてしまう、という声もよく耳にします。順番と型を先に決めてしまえば、迷う時間そのものを減らすことができます。
どのプラットフォームから始めるべきか
複数のSNSを同時に立ち上げようとすると、たいていの新人候補者は途中で息切れします。投稿を考える時間、写真や動画を用意する手間、コメントへの対応まで含めると、一人二人の陣営体制では手が回らなくなるのが実情です。だからこそ、最初にやるべきなのは「全部始める」ことではなく、「どれか一つに絞って、そこで型を作る」ことだと考えてください。
優先順位を決めるうえで一番大事な軸は、自分の選挙区にどんな年齢層の有権者が多いか、そしてその人たちがふだんどこで情報を得ているかです。高齢化率が高い住宅街や、昔ながらの商店街を抱える選挙区であれば、LINEやFacebookのように「すでに知っている人に確実に届く」媒体の優先度が上がります。逆に、大学や単身者向け賃貸が多いエリア、若い子育て世帯が流入している新興住宅地であれば、InstagramやXのほうが日常的に見られている可能性が高くなります。
もう一つの判断材料は、自分自身がどのくらい継続できそうかという現実的な見積もりです。写真を撮るのが好きで、日々の活動を画になる形で残せる人はInstagramと相性がいいですし、文章で考えを整理するのが得意な人はXのほうが負担なく続けられます。動画編集に抵抗がなければYouTubeやTikTokも選択肢に入りますが、これらは撮影・編集にかかる時間が読みにくいため、最初の1ヶ月で無理に手を広げる必要はありません。
実務的な落としどころとして、多くの新人候補者には「X(または Instagram)を軸に据えて、LINE公式アカウントを支援者向けの連絡網として並走させる」という組み合わせをすすめています。前者は不特定多数への発信、後者は登録してくれた人への確実な情報伝達という役割分担がはっきりしていて、限られた人手でも運用しやすいからです。TikTokやYouTubeは、軸になる媒体で発信の型ができてから、余力を見て追加を検討すれば十分間に合います。
選挙区の人口構成をあらためて数字で確認しておくのも有効です。自治体が公表している年齢別人口統計や、過去の選挙の投票率データを見ると、感覚だけで判断していたよりも実際の年齢構成が偏っていることに気づく場合があります。「なんとなく高齢者が多い印象」で終わらせず、実際のデータと照らし合わせておくことで、媒体選びの根拠がより確かなものになります。
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アカウント開設時に決めておくべきこと
アカウントを作る作業自体は数分で終わります。しかし、開設した瞬間の状態が、その後の何ヶ月ものイメージを左右してしまうことは意外と見落とされがちです。プロフィール文もアイコン写真も、あとから直せばいいと考えているうちに、初期のフォロワーがついた状態で変更することになり、かえって印象が散らかってしまうケースを何度も見てきました。開設前に、最低限次の3点は言語化しておくことをおすすめします。
プロフィール文で何を伝えるか
プロフィール欄は、初めて訪れた人が数秒で「この人は何をしている人か」を判断する場所です。肩書きや所属だけを並べるのではなく、「どの地域の、どんな課題に取り組んでいる人なのか」が一目で伝わる文にしておく必要があります。例えば「〇〇市在住/子育て支援と地域交通の改善に取り組んでいます」のように、地域名とテーマを具体的に書き込むだけで、検索やフォローの判断材料になります。政治活動としての発信であることが分かるよう、活動の実態に即した表現を選ぶことも忘れないでください。
アイコン写真は何を使うか
アイコンは、タイムラインに流れてくる投稿の中で真っ先に目に入るパーツです。証明写真のような硬い表情よりも、自然な笑顔で、顔の輪郭がはっきり分かる写真のほうが親しみを持たれやすい傾向があります。街頭活動やポスターで使う写真と統一しておくと、SNS上で見かけた顔とチラシで見た顔が一致し、「あ、あの人だ」という認知の積み重ねが起きやすくなります。逆に、媒体ごとに違う写真を使い分けてしまうと、有権者の頭の中で人物像がなかなか結びつきません。
投稿のトーンとキャラクターを決めておく
最後に、そしておそらく一番見落とされやすいのが、投稿全体を通じたトーンの一貫性です。ある日は硬い政策論を長文で語り、翌日は砕けた口調で日常を綴り、また別の日は演説の切り抜きだけを淡々と流したりします。こうしたばらつきは、フォローする側からすると「結局この人はどんな人なのか」が掴みにくくなる原因になります。丁寧な敬語で通すのか、少し砕けた口調を混ぜるのか、絵文字を使うのかどうかも含めて、最初にざっくりとしたトーンのイメージを決めておき、家族や陣営スタッフとも共有しておくと、複数人で投稿を作る場合でも文体がぶれにくくなります。
アカウント名も先に統一しておく
意外と後回しにされがちですが、アカウント名(ユーザーネーム)を媒体ごとにバラバラにしないことも大切です。X、Instagram、LINE公式アカウントで表記が微妙に違っていると、有権者が別々に検索しなければならず、せっかく興味を持ってもらえても途中で探すのをやめられてしまいます。氏名の読み方をそのままローマ字にする、選挙区名を含めるなど、覚えやすく統一感のある名前を最初に決めておき、可能であれば主要な媒体すべてで同じ表記を確保しておいてください。
開設後、最初の1ヶ月の動かし方
アカウントを開設したら、あとは何となく投稿を続ける、という進め方だと、たいてい2週目あたりでネタが尽きて更新が止まります。最初の1ヶ月は、フォロワー数を追うことよりも「無理なく続けられる型」を作ることを目的に据えるほうがうまくいきます。目安として、週ごとにやることを分けて考えると迷いが少なくなります。
| 週 | 主な取り組み | ポイント |
|---|---|---|
| 1週目 | プロフィール整備、最初の投稿(自己紹介・出馬に至った経緯) | 完璧な文章より、素の言葉で自分の背景を語ることを優先します |
| 2週目 | 日常の活動を投稿する習慣づけ(街頭での様子、地域を歩く様子など) | 毎日投稿にこだわらず、無理のない頻度を自分で決めて守ります |
| 3週目 | 既存の支援者・知人へアカウントの告知、フォロー・拡散の依頼 | 後援会名簿や地域行事の場を活用し、直接声をかけます |
| 4週目 | 投稿頻度・反応の振り返り、ネタの棚卸しと次月の方向性づくり | 反応が良かった投稿の傾向を見て、続ける発信と見直す発信を分けます |
1週目に用意する最初の投稿は、政策の主張を並べる場ではなく、「なぜこの地域で、なぜ自分が」という背景を伝える場だと捉えてください。長々とした演説文をそのまま貼り付けるより、自分の言葉で率直に語ったほうが、初めてプロフィールを訪れた人の印象に残ります。ある新人候補者は、1週目の最初の投稿で、自分が生まれ育った商店街のシャッターが年々増えていくのを見て出馬を決めた、という個人的なエピソードを短く綴りました。政策的な主張はほとんど書かれていなかったにもかかわらず、地元の知人からの反応が思いのほか多く集まり、その後の発信を続ける自信につながったといいます。
2週目からは、投稿を「特別なイベント」ではなく「日常の一コマ」として扱う練習期間だと考えてください。街頭に立った日の様子、地域の会合に参加した帰り道の一言、通勤途中に見かけた気になる風景など、政策と直接結びつかない内容でも構いません。むしろ、肩に力の入った投稿ばかりだと続かなくなるので、気負わず投稿できる小さなネタを見つける感覚を、この時期に養っておくと後々楽になります。
3週目に入ったら、既存の人脈へアカウントの存在を知らせる段階に進みます。ここで意外と抜け落ちやすいのが、後援会の集まりや地域行事といった対面の場で、口頭でアカウントの告知をすることです。SNS上だけで告知を完結させようとすると、そもそもSNSを見ていない層には届きません。名刺やチラシにQRコードを載せておき、「よろしければフォローお願いします」と一言添えるだけで、対面の接点からSNSへの導線がぐっと太くなります。
4週目は、数字と内容の両方を振り返るタイミングです。フォロワー数の増減だけを見るのではなく、どの投稿に「いいね」やコメント、シェアが集まったかを確認し、続ける価値のある発信のパターンを見つけ出します。逆に反応が薄かった投稿の傾向も把握しておくと、翌月以降のネタ選びに無駄な時間をかけずに済みます。
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投稿ネタに困ったときの引き出しを増やしておく
1ヶ月続けてみると、多くの新人候補者がぶつかるのが「今日は何を投稿すればいいか分からない」という壁です。政策の話ばかりでは重たくなりますし、日常の切り取りばかりでは何をしている人か伝わりません。ネタ切れを防ぐには、あらかじめ投稿の種類をいくつかのカテゴリーに分けておき、その日の気分ではなくカテゴリーを順番に回していく発想が役立ちます。
例えば「今日会った人・話した内容」「地域で気になった風景や出来事」「政策や考えの一言」「過去の活動の振り返り」「支援者からの声の紹介」といった具合に、5つ前後の引き出しを用意しておきます。毎回すべてを均等に使う必要はありませんが、投稿のたびに「今日はどの引き出しから話そうか」と考えるだけで、白紙の状態から悩むよりずっと投稿のハードルが下がります。スマートフォンのメモアプリに、その日感じたことを一言だけ書き留めておく習慣をつけておくと、投稿の下書きが自然に貯まっていきます。
陣営にスタッフがいる場合は、ネタの提案とアイコン・プロフィールなど基本情報の管理、投稿の最終確認を分担しておくと、候補者一人に負担が集中せずに済みます。ただし、最終的に発信される言葉の責任は候補者本人にあることに変わりはないので、投稿前に必ず候補者自身が目を通すフローだけは崩さないようにしてください。
フォロワーゼロから最初の支持者を集める方法
新規に開設したアカウントは、当然ながらフォロワーがゼロからのスタートです。ここで焦って広告出稿やフォロー数を稼ぐようなテクニックに頼っても、地に足のついた支持にはつながりにくいのが実情です。地道ではありますが、確実に効果が出やすいのは、すでに自分とつながりのある人たちに声をかけることから始める方法です。
親族、友人、これまでの職場や地域活動でのつながり、後援会の初期メンバーなど、心当たりのある人たちに直接メッセージを送り、アカウントを開設したこと、そしてフォローと可能であれば周囲への紹介をお願いしてみてください。人数としては数十人規模かもしれませんが、この最初の層が最初の反応を作り、投稿にコメントや反応がつく状態を作ってくれます。フォロワーゼロで反応もない投稿と、少数でも反応がついている投稿とでは、後から見に来た人が受ける印象がまったく違います。
次に効果的なのが、オフラインの接点にSNSへの導線を組み込んでおくことです。名刺、後援会入会案内、街頭で配るチラシやポケットティッシュなど、候補者に関わるあらゆる紙媒体にQRコードとアカウント名を載せておきます。とくに街頭演説やポスティングの現場では、目の前にいる人がその場でスマートフォンを取り出してフォローしてくれることも珍しくありません。紙とSNSを分けて考えるのではなく、紙からSNSへ、SNSから街頭活動へと人の流れが回るように設計しておくのがポイントです。
街頭活動そのものをSNS発信のネタとして活用することも、初期のフォロワー獲得には有効です。演説の予定を事前にSNSで告知し、当日はその場の様子を写真や短い動画で共有します。これを繰り返すだけでも、「この人は実際に地域を歩いている」という実感を有権者に持ってもらいやすくなります。選挙カーや街宣車を使った活動と組み合わせれば、車両の運行スケジュールをそのまま投稿の材料にできるので、ネタ切れの防止にもつながります。※ただし、告示前に詳細な街頭演説スケジュールを頻繁にSNSで告知すると、事前運動とみなされるリスクがあるため、告示後の運用として活用するのが安全です。地道な積み重ねですが、最初の100人、200人のフォロワーは、こうした一つひとつの接点の延長線上にできあがっていくものです。
もう一つ、意外と見落とされがちなのがフォロー返しへの丁寧な対応です。開設したてのアカウントをフォローしてくれた人に、律儀にお礼のコメントを返したり、相手の投稿に反応したりする小さなやり取りは、地味に見えて信頼関係を積み上げる効果があります。フォロワー数という数字だけを追いかけるのではなく、一人ひとりとのやり取りを大切にする姿勢そのものが、結果的に口コミでの紹介や拡散につながっていくことも珍しくありません。
新人候補者が特に間違えやすい法的なポイント
SNSを始めるにあたって、新人候補者が最も混同しやすいのが「政治活動」と「選挙運動」の境界です。公示(告示)前の期間にできるのはあくまで政治活動の範囲内での発信であり、投票を依頼する表現や、立候補そのものを表明するような投稿は「選挙運動」に該当し、この期間には一切認められていません。日々の活動報告や政策への考えを発信すること自体は問題ありませんが、「来月の選挙でぜひ一票を」といった呼びかけは、たとえ善意からであっても事前運動とみなされるリスクがあります。SNSに慣れていない新人候補者ほど、支援の輪が少し広がってきた高揚感から、うっかりこの一線を越えてしまいがちなので、投稿前に一呼吸置く習慣をつけておくと安心です。
実際にあった話として、ある新人候補者はアカウント開設からちょうど1ヶ月ほど経ち、フォロワーが少しずつ増えてきたタイミングで「支援してくれる方が増えてきて本当に嬉しいです。当選したら必ず恩返しします」という投稿をしようとしたことがありました。一見すると感謝の言葉に過ぎないようにも読めますが、時期や文脈によっては、特定の選挙を意識した投票依頼と受け取られかねない表現です。陣営内で確認したところ「まだ言ってはいけない段階」と指摘され、投稿前に表現を「日々の活動を応援していただき、励みになっています」という形に修正したそうです。ちょっとした言葉の選び方一つで受け取られ方が変わることを、身をもって実感した出来事だったといいます。
インターネットを使った選挙運動には、大きく分けて「ウェブサイト等を利用する方法」と「電子メールを利用する方法」の2種類があります。X、Instagram、Facebook、LINE、YouTube、TikTokといったSNSでの発信は前者にあたり、告示後は候補者・陣営だけでなく一般の有権者も自由に利用できます。一方、キャリアメールや一般メール、メールマガジンといった電子メール(SMTP方式)を利用する方法は、候補者や政党等に利用が限定されており、一般の有権者が選挙運動用の電子メールを送ることはできません。なお、SMS(ショートメッセージサービス)は電子メールではなく「ウェブサイト等を利用する方法」に分類されるため、一般の有権者もSNSと同様に選挙運動で利用することができます。SNSと電子メールを同じ感覚で扱ってしまうと思わぬルール違反につながるため、この区分は開設段階で頭に入れておいてください。
もう一つ押さえておきたいのが、なりすましや虚偽情報に関する規制です。候補者本人になりすましてアカウントを作る行為は公職選挙法235条の5のなりすまし罪に、経歴など虚偽の内容を公表する行為は同法235条2項の虚偽事項公表罪に、それぞれ抵触するおそれがあります。自分自身が加害者になることは意識しにくいかもしれませんが、支援者やスタッフが善意で作った非公式アカウントが、結果的になりすましと誤解されるトラブルも起こり得ます。公式アカウントの範囲を明確にし、非公式のものが乱立しないよう周囲にも周知しておくことが、新人候補者にとっての予防策になります。
なお、2026年7月には公職選挙法および情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)の改正が成立しており、施行は2027年3月1日、2027年春の統一地方選挙から本格的に適用される見通しです。これからSNS運用を始める新人候補者にとっては、選挙戦の途中でルールが切り替わる可能性がある時期にあたります。細かな運用基準については今後の周知内容を随時確認しつつ、まずは基本となる政治活動と選挙運動の線引きを丁寧に守ることを土台にしておくと、制度が変わっても大きく戸惑わずに対応できるはずです。
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まとめ
SNSをほとんど触ってこなかった新人候補者にとって、いきなり複数の媒体を完璧に運用しようとする必要はありません。選挙区の有権者層に合わせて軸となる媒体を一つ選び、プロフィールやトーンを開設段階で決めたうえで、最初の1ヶ月は無理のない発信の型を作ることに集中してください。既存の人脈への声かけやQRコードの活用、街頭活動との連動を重ねれば、フォロワーゼロからでも着実に支持の輪は広がっていきます。あわせて、政治活動と選挙運動の線引きなど基本的なルールを押さえておくことが、安心して発信を続けるための土台になります。
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