インターネット選挙運動でできること・できないこと|メール・SNS・動画配信の基本ルール

選挙が近づくと、候補者本人はもちろん、陣営スタッフや支援者から「このSNS投稿は大丈夫か」「メールで支援を呼びかけてもいいのか」といった質問が次々に飛んできます。インターネットを使った選挙運動は2013年の公職選挙法改正で解禁されましたが、細かいルールは今も残っており、さらに2026年7月に改正法が成立し、2027年3月からは新しいルールが加わります。SNSでの発信が選挙戦の勝敗を左右する時代になった一方で、ルールを正しく理解していないと、うっかり法律に触れる行為をしてしまうリスクもあります。本記事では、候補者・陣営の担当者が押さえておきたいネット選挙運動の基本と、2026年改正で緩和・強化された点を整理します。


目次

インターネット選挙運動とは何か

2013年の公職選挙法改正以前は、選挙運動用のビラや看板といった「文書図画」にウェブサイトやSNSも含まれると解釈されていたため、選挙期間中の更新は事実上できませんでした。この改正によって、候補者・政党等がウェブサイト、ブログ、SNS、動画配信サービスなどを使って選挙運動を行うことが認められ、選挙期間中でも情報発信を続けられるようになりました。今の選挙戦でSNSの更新が当たり前に行われているのは、この改正があったからです。

解禁された当初は「ネット選挙」という言葉自体が目新しく、陣営によって取り組み方に大きな差がありました。今では若い世代を中心にSNS経由で候補者の人柄や政策を知る有権者が増えており、選挙カーでの街頭活動と並ぶ、もう一つの主要な発信チャネルとして定着しています。

ウェブサイト・SNS・動画配信でできること

候補者本人や陣営の関係者は、選挙期間中もホームページやブログを更新できますし、X(旧Twitter)、Instagram、Facebook、YouTubeやTikTokといった動画配信サービスを使って政策の説明や街頭演説の様子、日々の活動報告を発信することができます。ライブ配信で演説をそのまま流したり、切り取った動画をSNSに投稿したりするのも、選挙運動の一環として広く行われています。

候補者本人・陣営による更新の考え方

更新作業自体は、候補者本人が行う必要はなく、陣営スタッフが代行することも可能です。ただし発信内容の責任は候補者や政党等に帰属するため、投稿前のチェック体制を整えておくことは実務上とても重要です。特に選挙期間の終盤は複数人でSNSを運用するケースが多く、誰が何を投稿したか後から確認できるようにしておくと、トラブルの予防につながります。

選挙運動用ウェブサイト等の表示ルール

2013年の解禁にあわせて、選挙運動用のウェブサイトやSNSアカウントには、運営者の名前や電子メールアドレスなど、連絡先を表示することが求められるようになりました。街頭演説の告知や政策の紹介を投稿する際にも、誰が発信しているのかを有権者が確認できる状態にしておくことが基本です。陣営でホームページを外部の制作会社に発注している場合でも、この表示が漏れていないかは選挙前に必ずチェックしておきたいポイントです。

また、候補者のアカウントであることが一見して分かりにくいと、なりすましアカウントとの混同を招きやすくなります。プロフィール欄に選挙区や党派を明記し、公式サイトへのリンクを貼っておくといった工夫も、実務上は有効な対策になります。


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電子メールを使った選挙運動のルール

ネット選挙運動が解禁された2013年の改正でも、電子メールについては別扱いとされてきました。ウェブサイトやSNSと違い、電子メールは送信先を選べて拡散のコントロールがしにくいという特性があるため、なりすましや誹謗中傷対策の観点から慎重なルールが設けられてきた経緯があります。

従来のルール(候補者・政党等に限定)

これまでの制度では、選挙運動のための電子メール送信ができるのは候補者や政党等に限られており、一般の有権者が選挙運動用の電子メールを送ることは認められていませんでした。たとえば支援者が「知人に投票を呼びかけるメールを送りたい」と考えても、それは制度上できない行為だったわけです。候補者から届いた活動報告メールを、支援者が良かれと思ってそのまま知人に転送してしまうケースも実際にはあったようですが、厳密にはグレーゾーンとして扱われてきました。

候補者・政党等が送るメールについても、送信の際には送信者の氏名や電子メールアドレスなどの表示、受信拒否(配信停止)の方法の明示といった条件が設けられており、これらを満たさない一斉送信は選挙運動用の電子メールとして認められない場合があります。陣営でメール配信システムを使う際は、配信停止リンクの設置漏れがないかを事前に確認しておく必要があります。

2026年改正で何が変わったのか

2026年7月13日に成立した改正公職選挙法・改正情プラ法では、この電子メールのルールに大きな緩和が加えられました。一般有権者も選挙期間中に電子メールで投票依頼をすることが可能になったのです。施行は2027年3月1日で、実際に適用されるのは2027年春の統一地方選挙からとなります。つまり、今すぐ何かが変わるわけではなく、次の大きな選挙で初めて新ルールが動き出すという時間軸で理解しておく必要があります。

この緩和が実現すれば、支援者が自分の言葉で友人・知人に投票を呼びかけるメールを送れるようになり、口コミに近い形での支援拡大が期待できます。SNSでの発信が中心だった支援者の応援活動に、メールという選択肢が一つ加わるイメージです。ただし、送りすぎれば迷惑メールのように受け取られてしまうリスクもあるため、緩和後も相手との関係性を踏まえた使い方が求められるでしょう。

この改正が実務にどう影響するかは陣営にとって関心の高いところですが、記事執筆時点(2026年7月)では、送信先の同意の取り方や表示義務の詳細など、具体的な運用の線引きは総務省のガイドライン待ちの部分が多く残っています。支援者への案内文を作る際は、ガイドラインが公表されてから最終確認をする、という前提で準備を進めるのが安全です。


有料インターネット広告についての注意点

SNSやウェブサイトの広告枠にお金を払って選挙運動の内容を掲載する、いわゆる有料インターネット広告については、候補者・政党等が主体となることを前提とした制度設計になっています。これは、資金力によって発信力に大きな差が生まれることを防ぐという考え方に基づくもので、一般有権者が自己資金で選挙運動用の広告を出すことは想定されていません。

陣営側で広告出稿を検討する場合は、誰が出稿主体になるのか、広告のクリエイティブに誰が費用を負担したかを明示する必要があるかどうかなど、細部を選挙管理委員会に確認したうえで進めるべきです。SNSの広告出稿は管理画面上で数クリックで完了してしまうため、うっかり運用担当者の個人名義で出稿してしまうといった事故も起こりやすい領域です。

後援会や支援団体が善意で「候補者を応援したいから」と広告費を出そうとする相談も、実際の選挙戦ではよく出てきます。しかし出稿主体や資金の出し手が誰なのかによって扱いが変わってくる可能性があるため、広告予算が用意できたからといって即座に出稿するのではなく、まずは陣営の会計責任者と選挙管理委員会の双方に相談する順番を徹底したほうがよいでしょう。ネット広告は出稿から掲載までのスピードが速い分、後から取り消すのが難しい媒体でもあります。


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一般有権者ができること・注意すべきこと

候補者や政党等が発信した投稿を、一般有権者がリツイートやシェアで広めることは、選挙運動用ウェブサイト等の解禁以来、広く行われている行為です。候補者の投稿をそのまま拡散するだけであれば、多くの場合は問題になりにくいとされています。ただし、拡散にあたって自分なりのコメントを加えたり、内容を編集して転載したりする場合は、その発信内容についての責任も自分自身に生じる可能性があるという点は意識しておいたほうがよいでしょう。

また、一般有権者が自分自身の言葉で候補者を応援する投稿を発信すること自体は、ウェブサイトやSNSを使った意見表明として広く認められています。友人に「今回はこの候補者を応援している」と伝えるSNS投稿や、応援演説の様子をスマートフォンで撮影して感想とともに投稿するといった行為は、日常的に見られる光景です。陣営としては、こうした支援者の自発的な発信をどう後押しするかも、SNS戦略の一部として考えておく価値があります。

具体的な場面を考えてみましょう。ある候補者の熱心な支援者が、候補者本人のSNS投稿を「ぜひ投票をお願いします」という一文を添えて、友人知人にメールで転送しようとしたとします。従来のルールでは、これは一般有権者による選挙運動用の電子メール送信に当たる可能性があり、慎重な対応が必要な行為でした。2026年改正後は一般有権者による電子メールでの投票依頼が可能になる予定ですが、施行前の現時点でこうした転送を行うと、旧ルールの適用を受けることになります。支援者からこの種の相談を受けたときは、時期によって答えが変わるということを丁寧に説明する必要があります。

※本記事は一般的な制度の解説です。個別の行為が制度上どう扱われるかは、選挙管理委員会に必ずご確認ください。

陣営としては、支援者向けに「これはやってよい」「これは避けたほうがよい」という簡単な案内を用意しておくと、現場での判断ミスを減らせます。特にボランティアとして初めて選挙に関わる支援者は、SNSでの何気ない一言が思わぬ形で拡散してしまうことに慣れていない場合が多いです。選挙事務所での説明会や、LINEグループでの周知など、日頃のコミュニケーションの中でルールを繰り返し伝えておくことが、結果的にトラブル予防への一番の投資になります。


2026年改正で新たに加わった留意点

2026年の改正では、電子メールの緩和だけでなく、インターネット空間での偽情報対策やなりすまし対策を強化する内容も盛り込まれました。陣営としては、発信する側・される側の両方の立場で押さえておく必要があります。

偽情報で選挙の公正を害してはならない責務

改正後の公職選挙法142条の7には、有権者に対して「偽情報で選挙の公正を害してはならない」という責務規定が新設されます。この規定自体には罰則は設けられていませんが、選挙における情報発信に関する社会的な責任を明文化したものと位置づけられます。陣営としては、支援者に対して誤情報を安易に拡散しないよう呼びかける材料としても使える規定です。

なりすまし罪などの適用明確化

もともと公職選挙法には、虚偽事項の公表罪(235条2項)やなりすまし罪(235条の5)といった規定がありますが、2026年改正ではこれらがSNS上の発信にも適用されることが明確化されました。候補者になりすましたアカウントが虚偽の情報を発信するようなケースは、以前から問題視されていましたが、法律上の位置づけがより明確になったことで、陣営が偽アカウントの通報や対応を進めやすくなることが期待されます。選挙期間中に候補者を騙るアカウントを見つけた場合は、証拠のスクリーンショットを残したうえで、早めに選挙管理委員会や弁護士に相談する体制を整えておくとよいでしょう。

生成AI画像・動画の表示義務

もう一点、2027年3月の施行後に新設されるのが、実写と誤認されるおそれのある生成AI画像・動画についての表示義務です。対抗候補の発言をAIで加工した動画を作成して発信するような行為は、これまでも問題視されてきましたが、今後は実写と誤認されるおそれのあるAI生成コンテンツについて、AI生成である旨を表示することが義務付けられます。陣営内でAIツールを使って画像や動画を作成する機会が増えている今、どこまでが表示義務の対象になるのかは重要な論点ですが、この点も総務省のガイドラインが公表されるまでは詳細が確定していません。

選挙ポスターの背景をAIで生成したり、演説の告知画像をAIツールで手早く仕上げたりすることは、今後の選挙戦でさらに一般的になっていくと考えられます。表示義務の対象になるかどうかの境界線がまだはっきりしない現状では、少しでも実写に近い仕上がりになった素材については、念のため「AI生成」の表示を入れておくという保守的な運用も一つの考え方です。制作を外部のデザイナーやSNS運用代行会社に依頼している場合は、この点を事前に共有しておくと安心です。

陣営として今から準備しておきたいこと

2027年3月の施行までにはまだ時間がありますが、統一地方選挙は毎回、公示直前になって準備が慌ただしくなりがちです。電子メールでの投票依頼が可能になった場合の文面案、AI生成コンテンツを使う際の社内チェックリスト、なりすましアカウントを見つけたときの初動対応フローなど、ガイドラインの詳細が固まる前から骨格だけでも用意しておくと、施行後の対応がスムーズになります。


できること・できないこと整理表

ここまでの内容を、行為の種類ごとに簡単な表で整理します。あくまで一般的な整理であり、個別の事情によって判断が変わる可能性がある点はご留意ください。

行為候補者・政党等一般有権者
ウェブサイト・SNSでの選挙運動用発信できるできる(自分の意見表明として)
候補者の投稿のリツイート・シェアできる(内容改変には注意)
動画配信サービスでの演説配信できる視聴・拡散はできる
選挙運動用電子メールの送信できる2027年3月施行後にできる(施行前は不可)
有料インターネット広告の出稿できる(候補者・政党等が主体)想定されていない
実写誤認のおそれがあるAI生成動画の無表示での発信2027年3月施行後は表示義務あり2027年3月施行後は表示義務あり

よくある質問

Q1. 支援者が候補者の投稿を電子メールで転送するのは今すぐできますか。
2026年改正による一般有権者への電子メール解禁は、2027年3月1日の施行後、2027年春の統一地方選挙から適用される予定です。現時点(2026年7月)ではまだ施行前ですので、従来どおり候補者・政党等以外による選挙運動用電子メールの送信は認められていません。時期を混同しないよう、陣営内でも周知しておくことをおすすめします。

Q2. 支援者がSNSで独自にコメントを添えて候補者の投稿を拡散するのは問題になりますか。
候補者の投稿をそのまま拡散するだけであれば一般的に問題になりにくいとされていますが、独自のコメントを加える場合は、その発信内容についての責任が発信者自身に生じる可能性があります。虚偽の内容や誤解を招く表現を加えないよう、支援者にも注意を促しておくとよいでしょう。

Q3. 生成AIで作った選挙用のイラストや画像にも表示義務はありますか。
表示義務の対象は「実写と誤認されるおそれのある」生成AI画像・動画とされており、イラスト調で明らかにAI生成とわかるようなものまで一律に対象となるかどうかは、記事執筆時点では明確になっていません。実写に近いリアルな画像・動画を扱う際は特に注意し、詳細は総務省のガイドラインの公表を待って確認することをおすすめします。

Q4. 2013年の解禁以降、選挙運動用ウェブサイトやSNSの更新は誰でも自由にできますか。
候補者・政党等であれば選挙期間中の更新が可能ですが、あくまで選挙運動としての発信であることが前提です。陣営スタッフが更新代行を行う場合も、投稿内容の最終的な責任は候補者や政党等に帰属する点は変わりません。誰が投稿してもよいという話ではなく、発信の主体と責任の所在を明確にしたうえで運用することが基本になります。


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まとめ

ネット選挙運動は2013年の解禁以来、候補者・陣営の情報発信の主戦場になってきました。ウェブサイトやSNS、動画配信を使った発信は候補者・陣営にとって基本的な選挙運動の手段であり、一般有権者もリツイートやシェアといった形で参加できます。一方で、電子メールについては長らく候補者・政党等に限定されてきましたが、2026年7月成立の改正法により、2027年3月の施行後、一般有権者による投票依頼メールも可能になる見通しです。同時に、偽情報責務の新設、なりすまし罪の適用明確化、生成AI画像・動画の表示義務といった新しいルールも施行されます。

制度の詳細は総務省のガイドラインが公表されるまで確定しない部分が多いため、選挙が近づいたら最新情報を確認しながら、陣営としての運用ルールを固めていくことが大切です。新しいルールが増えるほど「何ができて何ができないか」を陣営内で共有する手間も増えていきますが、逆に言えば、ここを丁寧に整理できている陣営ほど、SNSでの発信を安心して積極的に行えるようになります。選挙カーでの街頭活動と、SNSやウェブでの発信を組み合わせて、有権者との接点を増やしていく発想が今後さらに重要になっていくはずです。

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