投票率向上とSNS活用|候補者が若年層有権者にどう届けるか

選挙が近づくと、駅前や大学の前で候補者の名前を耳にする一方で、スマートフォンの画面の中でも同じ名前を見かけることが増えてきました。街頭演説とSNS、この二つの場所でどう有権者に届くかは、いまの選挙戦を考えるうえで欠かせないテーマになっています。特に若い世代については、投票率の低さが以前から指摘されており、候補者側としても「どう届けるか」を工夫する余地が大きい層だといえます。この記事では、若年層の投票率という課題を整理したうえで、SNSをどう活用できるか、そして2026年の法改正を踏まえて何に気をつけるべきかを、できるだけ実務的な視点でまとめてみます。すでにSNS運用を始めている候補者の方にとっても、これから準備を進める方にとっても、参考になる部分があれば幸いです。


目次

若年層の投票率という課題

総務省の選挙関連統計などでは、10代・20代の投票率が他の年代と比べて低い傾向にあることが、これまでも繰り返し指摘されてきました。具体的な数値は選挙の種類や年によって変動するため、ここで断定的な数字を挙げることは避けますが、「若い世代の投票率が相対的に低い」という傾向自体は、選挙の現場に関わる人であればほぼ共通の認識として持っているのではないかと思います。

この傾向の背景には、政治や候補者についての情報がそもそも届いていない、あるいは届いていても自分の生活と結びつけて考えにくい、という事情があるように感じられます。テレビや新聞といった従来型のメディアに触れる機会が若年層では相対的に少なく、代わりにSNSや動画配信サービスから情報を得ている割合が高いという傾向も、よく指摘されるところです。つまり、候補者側の発信が届く場所と、若年層が実際に情報を受け取っている場所とのあいだに、ズレが生じやすい構造があるとも言えます。

このズレを縮めるために、候補者がSNSをどう使うかという話題が、近年の選挙戦でより重要視されるようになってきました。

候補者側の立場から見れば、若年層への発信は「票を増やすための施策」という以上の意味を持つ場合もあります。地域の将来を担う世代がどう考えているかを知る、あるいは自分の政策を届けたい相手として最初から想定しておく、という姿勢そのものが、選挙戦のあり方を変えていく面もあるはずです。逆に言えば、若年層への発信を後回しにしてしまうと、その世代の関心事や不満が政策づくりに反映されにくくなり、結果として投票率の低さがさらに固定化してしまうという悪循環も考えられます。

地方選挙のように、有権者との距離が近い選挙であればあるほど、若年層一人ひとりの声が結果に与える影響は決して小さくありません。だからこそ、候補者の側から歩み寄る発信の仕方を考える意味があるのだと思います。


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なぜSNSが若年層への窓口になるのか

SNSが若年層への窓口として機能しやすい理由は、単に「若い人がよく見ているから」だけではありません。発信の形式そのものが、政策や人柄を伝える手段として、街頭演説や紙のチラシとは違う役割を果たせる点も大きいと感じます。街頭演説は一度その場を通り過ぎれば終わってしまいますが、SNSに残った投稿は後からでも見返すことができ、興味を持ったタイミングで検索して情報にアクセスできるという点も、若年層にとっては使いやすい仕組みだと言えるでしょう。

政策をわかりやすく伝える

選挙公報や政策集は情報量が多く、じっくり読めば理解できる内容であっても、忙しい生活の中でそこまで手を伸ばす人は限られます。SNSであれば、政策の一部分を切り出して、短い文章や図解、あるいは1分程度の動画で伝えることができます。すべてを伝えきる必要はなく、「まず興味を持ってもらう」入り口として使えるのがSNSの強みです。そこから公式サイトや詳しい政策ページに誘導する、という組み立て方も自然にできます。

候補者の人柄を伝える

もう一つの役割は、候補者自身の人柄を伝えることです。政策の中身以前に、「この人がどういう人なのか」が伝わっていないと、有権者は投票先を選びにくいものです。日々の活動の様子や、ちょっとした雑談のような発信を積み重ねることで、候補者への親近感が生まれやすくなります。特に若年層は、テレビの討論番組で見る候補者像よりも、SNS上での自然な言葉遣いや表情から人柄を判断する傾向があるように思われます。

繰り返し接触できる

SNSのもう一つの利点は、一度きりの接触で終わらない点です。街頭演説やポスティングは、その場に居合わせなければ情報が届きませんが、SNSであれば同じ候補者の発信に何度も触れる機会をつくれます。心理学的にも、繰り返し目にする対象への印象は徐々に好転しやすいと言われており、選挙戦の期間を通じて発信を続けること自体に意味があります。一回のバズを狙うよりも、地道な積み重ねの方が結果的に効いてくる場合が多いというのが、SNS運用に関わる人の実感としても近いのではないでしょうか。


若年層に届く発信の工夫

SNSを使うこと自体は今や当たり前になっていますが、若年層に実際に届く発信にするには、いくつかの工夫が必要です。同じ内容を発信していても、見せ方一つで反応がまったく違ってくることは珍しくありません。ここでは代表的なものをいくつか挙げてみます。

短尺動画とビジュアル重視

長文のテキストよりも、短い動画や写真の方が目に留まりやすいのは、SNS全体の傾向としてよく言われることです。政策説明であっても、1分前後にまとめた動画にすることで、最後まで見てもらえる可能性が上がります。文字だけの投稿に比べて、候補者の表情や声の調子が伝わる分、印象にも残りやすくなります。

双方向的な発信

一方通行の発信だけでなく、コメントへの返信や、簡単な質問を投げかける投稿など、双方向のやり取りを意識することも効果があります。若年層は「発信されている情報を受け取る」だけでなく、「自分も関われる」と感じられる場に反応しやすい面があります。すべてのコメントに丁寧に答える必要はありませんが、無視されている印象を与えないことは大切です。

反応を見ながら調整する

投稿してみてどんな反応があったかを振り返り、次の発信に反映させることも欠かせません。再生数や「いいね」の数だけを追いかける必要はありませんが、どの投稿にコメントが多く付いたか、どの時間帯に見てもらえているかといった傾向をなんとなく把握しておくだけでも、次の発信の方向性を決めやすくなります。最初から完璧な形を目指すよりも、少しずつ試しながら自分たちに合ったやり方を見つけていく方が、長い選挙戦の中では現実的だと感じます。

ある街頭演説の場面から

ここで一つ、想定される場面を挙げてみます。ある候補者が大学の近くで街頭演説を行ったものの、通行する学生の多くはスマートフォンを見ながら足早に通り過ぎていき、演説そのものにはあまり注目が集まりませんでした。ところが、その場の様子を選挙カーの前で30秒ほどの短い動画にまとめ、その日のうちにSNSに投稿したところ、演説を聞いていなかった層からもコメントや「いいね」が付き、街頭では得られなかった反応が返ってきたそうです。現場での発信と、SNSでの発信は別物として設計する方が、結果的にどちらも活きてくるという一例だと言えるでしょう。


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SNS・動画配信サービスごとの特色を活かす

「SNSを活用する」と言っても、プラットフォームによって使われ方や雰囲気はかなり異なります。すべてに同じ内容を同じ形式で投稿するのではなく、それぞれの特色に合わせて発信を組み立てる方が、若年層への届き方も変わってきます。

X(旧Twitter)

速報性が高く、政策への見解や日々の活動報告など、テキスト中心の発信を積み重ねやすい場です。他の利用者からの引用や返信を通じて情報が広がっていく特性があるため、政治的な話題への関心がある層にはリーチしやすい一方、若年層全体という意味では利用者の幅にばらつきがあります。

InstagramやTikTok

写真や短尺動画を中心にしたビジュアル重視のプラットフォームで、10代・20代の利用時間が長い傾向があるとされています。街頭活動の雰囲気や候補者の表情が伝わりやすく、政策の一部を切り出したテンポの良い動画は、この層に届きやすい形式だと言えます。

YouTube

じっくりと政策を説明したい場合や、インタビュー形式で候補者の考え方を伝えたい場合に向いています。短尺の動画で興味を持ってもらい、より詳しく知りたい人にはYouTubeの長尺動画へ誘導する、という組み合わせも考えられます。

LINE

すでにつながっている支援者や後援会の名簿がある場合、LINEでの発信は開封率が高く、告知や活動報告を確実に届けやすい手段です。若年層への新規リーチという意味では他のSNSに劣る面もありますが、既存の支援層への発信としては安定した効果が見込めます。

どのプラットフォームを使うにしても、限られた人員と時間の中ですべてを同じ熱量で運用するのは難しいものです。候補者自身や陣営の体制に合わせて、優先順位をつけて取り組む方が現実的だと思います。


2026年の法改正と気をつけたいこと

SNSを積極的に使うにあたっては、発信の工夫と同じくらい、制度面の留意点も押さえておく必要があります。2026年7月13日、改正公職選挙法と改正情プラ法(情報流通プラットフォーム対処法)が成立しました。施行は2027年3月1日で、2027年春の統一地方選挙から適用される予定です。

この改正の背景には、2024年の兵庫県知事選や東京都知事選で、SNS上のデマや切り抜き動画の拡散が問題視されたことがあります。事実と異なる情報がそのまま広まってしまい、有権者の判断に影響を与えたのではないかという指摘が相次いだことが、今回の法改正の一つの契機になったとされています。

具体的な改正内容としては、実写と誤認されるおそれのある生成AI画像・動画について、2027年3月の施行後はAI生成である旨の表示が義務付けられるようになります。若年層向けにキャッチーな動画を作る際、生成AIを使った加工や合成を取り入れる場面が今後増えていくことも想定されますが、実写と見分けがつきにくいものについては表示義務が課される点は、あらかじめ意識しておく必要があります。

また、これまでもあった虚偽事項の公表罪(公職選挙法235条2項)やなりすまし罪(同235条の5)についても、SNS上の発信に適用されることが今回の改正で明確化されました。候補者本人の発信だけでなく、支援者やスタッフが運用に関わる場合も含めて、事実確認を怠らない姿勢が一段と重要になってきます。

ただし、2026年7月現在、具体的な運用の線引きについては総務省のガイドライン待ちの部分が多く、細かい判断基準はまだ固まっていません。今後発表される指針を随時確認しながら、対応していく必要があります。

制度の話とは少し離れますが、こうした改正の流れを踏まえると、若年層向けの発信であっても「わかりやすさ」と「正確さ」は両立させるべきものだと感じます。短くまとめる、テンポよく見せる、という工夫は続けつつ、内容そのものが誤解を招かないか、事実に基づいているかは常に確認する。この基本姿勢は、法改正の有無にかかわらず変わらないはずです。

実務的な備えとしては、投稿前に「これは実際にあった出来事か」「編集や加工で印象が変わっていないか」を確認する簡単なチェックの手順を、陣営内であらかじめ共有しておくことが挙げられます。誰かが善意で作った切り抜き動画や画像であっても、事実と異なる印象を与えてしまえば、候補者自身が虚偽事項の公表罪やなりすまし罪の対象と見なされるリスクを負うことになりかねません。発信のスピードを保ちながらも、最終的な公開判断は必ず候補者本人か責任者が確認する、という体制にしておくと安心です。


今日から始められる工夫

制度面の話をすると身構えてしまいがちですが、実際に今日から取り組める工夫は意外と地味なものが多いです。いくつか挙げてみます。

  • 演説や街頭活動の様子を、その日のうちに1分以内の動画にまとめて投稿する
  • 政策の説明は「結論を先に」書き、詳細は公式サイトへのリンクで補う
  • 投稿の最後に簡単な質問を添えて、コメントでの反応を促す
  • 数字や事実を紹介する投稿は、出典や根拠を一言添えるようにする
  • 生成AIを使った画像・動画を使う場合は、加工の有無をあらかじめ社内で確認するルールを決めておく

どれも派手な施策ではありませんが、継続することで少しずつ発信の質と反応が変わってくるはずです。特に、投稿のたびに「これは誰に向けた発信か」を考える習慣をつけておくと、若年層向けの発信とそれ以外の発信を自然に区別できるようになります。

もう一つ意識しておきたいのは、発信を続けるための体制づくりです。候補者本人がすべての投稿を作る必要はなく、スタッフや支援者と役割を分担しながら、無理のないペースで続けられる仕組みを選挙戦の早い段階から用意しておくと、後半になって発信が途切れてしまうことを避けられます。特に選挙期間中は日々のスケジュールが詰まりやすいため、あらかじめ簡単な投稿テンプレートや撮影のルールを決めておくと、現場での負担を減らしながら発信を継続しやすくなります。


SNSだけに頼らない、街頭演説やチラシとの組み合わせ

ここまでSNSの活用について書いてきましたが、SNSだけで選挙戦のすべてをカバーできるわけではありません。SNSを見ていない有権者は依然として多く、地域によっては選挙カーでの街頭演説やチラシのポスティングが、いまも重要な接点になっています。

むしろ、街頭活動で候補者の生の声を聞いた人が、後からSNSで名前を検索して詳しい政策を確認する、という流れも十分に考えられます。逆に、SNSで候補者を知った人が、実際に街頭演説の場に足を運んでみる、という流れもあり得ます。SNSとリアルな活動は競合するものではなく、互いの入り口になり得るものだと捉えた方が、選挙戦全体の設計としては無理がありません。

特に地方選挙では、有権者数そのものが限られているため、一人ひとりへの接触の積み重ねが結果に直結しやすい面があります。SNSで広く知ってもらうことと、街頭で直接顔を合わせて話すことは、どちらも欠かせない要素であり、片方だけに偏ってしまうと、届けられる層に偏りが出てしまう可能性もあります。地域や候補者の状況に応じて、両者のバランスをどう取るかを考えることも、選挙戦の準備段階では大切なポイントになってきます。

選挙カーは、単に候補者の名前を連呼するための道具ではなく、その日その場所での活動の様子をSNS用の素材として撮影する舞台にもなります。街頭活動とSNS発信を組み合わせて設計することで、若年層を含めた幅広い層への接点を増やしていくことができます。停車した場所での短いスピーチや、支援者との掛け合いを撮影しておき、移動中の車内でその日のうちに編集して投稿する、といった動き方も現実的な選択肢の一つです。

選挙カーの運行スケジュールとSNSの投稿タイミングをあらかじめ組み合わせておくことで、街頭活動そのものがSNS用のコンテンツづくりの場にもなり、一つの活動から複数の接点を生み出せるようになります。地道な積み重ねではありますが、こうした小さな工夫の連続が、最終的には若年層を含む幅広い有権者への届き方を変えていくのだと思います。撮影から編集、投稿までの一連の流れを外部に相談しながら整えていくことも、限られた時間の中で発信を続けるための一つの選択肢になります。

※本記事は一般的な傾向・工夫を紹介したものです。制度上の詳細は総務省・選挙管理委員会の発表を必ずご確認ください。


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まとめ

若年層の投票率が他の年代に比べて低い傾向にあるという課題は、一つの施策で簡単に解決できるものではありません。ただ、SNSや動画配信を通じて政策や人柄をわかりやすく伝えることは、これまで候補者の存在に触れる機会が少なかった層に対して、確実に接点を増やす手段になります。短尺動画やビジュアル重視の発信、双方向のやり取りといった工夫は、今日からでも始められるものばかりです。

同時に、2026年の公職選挙法・情プラ法の改正で、生成AI表示義務やなりすまし罪の適用明確化といった新しいルールが2027年3月から動き出すことも踏まえておく必要があります。若年層向けにテンポよく発信することと、事実に基づいた誠実な発信であることは、決して矛盾するものではありません。むしろ両立させることで、長く支持され続ける発信につながっていくはずです。制度の詳細は今後も総務省のガイドラインなどで補われていくと考えられるため、選挙が近づくたびに最新の情報を確認する習慣をつけておくとよいでしょう。

SNSの発信は、一度きりの選挙で終わるものではなく、任期の間も含めて長く続いていく活動の一部です。信頼を積み重ねていく視点を持ちながら、若年層にも届く発信の形を探っていくことが、これからの選挙戦にはより求められていくのではないでしょうか。

そして、SNSはあくまで選挙戦全体の一部です。選挙カーでの街頭演説やチラシといった従来からの手段と組み合わせることで、SNSを見ない層にも、SNSを主に使う層にも、それぞれの入り口から届けることができます。一つの活動を複数の接点として使い分けていく発想を、ぜひ選挙戦の準備の中に取り入れてみてください。


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